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「AIは必要か」などという議論は不要。世界はどんどん進んでいる

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 孫 正義

2022年7月28日に開催された「SoftBank World 2022」において、孫正義氏は「AIは必要か、などという議論は不要」と語った。つねに時代の先を読む経営で、いまや時価総額9兆円を超えるソフトバンクグループを一代で築き上げ、日本でもっとも成功を遂げた起業家ともいえる同氏が見すえる未来とは、どのようなものか。この講演を9つのキーワードで紐解きながら、「IT業界の巨人」が見すえる「次なる世界」に迫りたい。

デジタルトランスフォーメーション(DX)

―孫氏が考えるDXとは、どういったものなのだろう。

 コロナ禍では、保健所がいまだにFAXで情報を送っていたという報道がありました。これを見て、日本はそんな状態だったのかと驚きました。私は、FAXをEメールに切り替えることがDXだとは思いません。たとえれば、芋虫がサナギになったようなもの。DXというのは、単にデジタル化するだけではなく、データをAIで分析し、未来予測などにフル活用すること。このAI化にまでたどり着いて、初めて本当の意味でのDXといえるんです。

AI革命

―AIが活用されることで、具体的にどのような変革が起こるのか。

  的確に未来を予測できるようになります。あらゆるものの需要を予測することで、さまざまな問題を解決できるようになるのです。また、新たなイノベーションも創出されます。たとえば、製造業でコストが半分になる、新製品の開発スピードが10倍になる、といった試算もあります。

 にもかかわらず、日本企業のAI導入率が非常に遅れています。たとえば、AIに理解がある経営層の割合は、アメリカが75%であるのに対し、日本は24%。企業でのAIエンジニア在籍率はアメリカが62%ですが、日本は11%。日本ではいまだに有識者が「AIは人類に必要か」などと議論をしていますが、そんな議論をしている間に、世界はどんどん活用が進んでいます。

アナログとデジタルの違い

―情報がデジタル化されることの本質的な意味とはなにか。

 アナログとデジタルの違いは、マイクロコンピュータ、すなわちCPUが備わっているかどうかの違いといえます。たとえば、家にある温度計。アナログの温度計であれば、その情報を目で見て、単に気温がわかるだけです。他人に伝える場合は、言葉やメモで伝えなければなりません。

  CPUが組み込まれると、温度を「上げる」「下げる」など、いろいろな命令セットへと連携ができます。デジタルデータを大量に集めることができれば、CPUはディープラーニングができ、AIとしてさらに高度な処理ができるようになる。インテリジェンスが生まれるのです。CPUの演算処理能力の進化に伴い、命令を受けるデバイス側に新たな機能を実装したり、ほかのデバイスをコントロールしたりできるようになる。こうした進化の連鎖が生まれてくるのです。

CPUがあふれる世界

―デジタル化でCPUが普及すると、社会はどう変わるのか。

 CPUやGPU(※)が組み合わさったAIチップが、社会にあふれてくるでしょう。10年経たずして1兆個のCPUが生まれ、そこから4~5年で2兆個、4兆個という時代がやってきます。人間と人間がコミュニケーションをとるだけでなく、人間とモノ、もしくはモノ同士がデータをやり取りするようになり、圧倒的なデータ量が生まれる。自動車がAIの搭載で自動運転をこなすロボットのようになり、工場そのものがロボットになる。3~4年前、イーロン・マスク氏がテスラの最新工場を案内してくれたときは驚きました。人の姿がほとんどない。ロボットとロボットが連携しながら、自動車を組み立てている。工場そのものが完全にロボットなんですね。もはやロボットであるスマート工場が、どんどんロボットを生み出すような状況になっていきます。

※GPU : Graphics Processing Unitの略。画像処理に特化したプロセッサ

ディープラーニング

―こうしたAIの進化とは、データ学習、すなわちディープラーニングの進化であると孫氏はいう。

 最近では、人間がいちいちプログラミングしなくても、どんどんAIがプログラムを自動生成する時代になっています。私の親しい友人であるジェンスンが率いるGPU世界No.1のNVIDIAによると、GPUの処理能力は5年で13倍になり、学習時間が5年で900分の1、推論コストが2年で33万分の1になっているというのです。100万円かかっていた推論コストが3円、なんてことが起きています。社員に任せるよりずっと速くて安い。AIを活用できる会社とできない会社では、もう競争力がまったく違う、そんな時代がやってくるわけです。

ソフトバンクグループ

―日本でもっともAI活用が進んでいる企業ではないか、と孫氏は指摘する。

 ソフトバンクのグループ企業のユーザーを見ると、モバイル・ブロードバンドで5,700万人、ヤフーで8,600万人、PayPayには4,900万人のユーザーがいます。そこから得られる圧倒的な量のデータを徹底的に活用し、AI活用を促進させています。モバイル・ブロードバンドでは、通信ネットワークの最適化やサポート品質の向上に。ヤフーであれば、広告審査の自動化や商品レコメンドのレベル向上、検索結果の最適化に。そして、PayPayでは不正検知のモニタリングにAIを活用しています。現在では、クレジットカードやそのほかの決済方法と比べても堅牢で、ほとんど不正が起きないレベルに達しています。我々はさらにAI活用を推進する考えで、LINEやヤフーの親会社であるZホールディングスでは、AI人材を今後5年間で5,000人増員する計画を立てており、また5,000億円のAI投資を行います。

増えるAI活用事例

―孫氏からは、AI活用が進む代表的な事例が紹介された。

 たとえば小売りの現場で、何が失敗の要因になるかといえば、在庫管理です。的確な需要予測をしなければならない。多くの現場では、いまだにKKD、すなわち「勘と経験と度胸」に頼って仕入れをしているのではないでしょうか。未来の需要予測のために、AI活用に頭を切り替えていただきたい。

 また、AIは都市そのものを変えます。まち全体が1つのOSで構成され、オペレーションされていくようになります。天候やイベントなどの要因で刻々と変わるトラフィックに応じてAIがリアルタイムで信号を制御するようになれば、起こる必要のない交通渋滞はなくなります。

世界のAI開発

―世界のAI事情を知る孫氏は、AIの活用にくわえ、開発競争でも「日本は遅れている」と警鐘を鳴らす。

 いま、世界にはAI開発をリードするユニコーン企業が約1,500社(急成長中の候補企業含む)あります。そのうちの約3分の1である470社超で我々ソフトバンクグループのビジョン・ファンドが株主になっています。ほとんどの場合が、筆頭株主かそれに近いポジションです。毎日のようにユニコーン企業の経営者からプレゼンを受けていますが、それは驚くような話の連続です。それらの英知をソフトバンクグループのヤフーやLINE、ソフトバンク、Arm、PayPayなどに持ち込んで、日本そのもののAIを進化させたい。それが我々の責務だと思っています。

日本のDNA

―本来、日本にはAI活用を広げる素地があると孫氏は指摘する。

 日本のDNAは、もともと「電子立国」といわれたように、世界No.1の「ハイテク国家」なんです。ものづくりをロボット化して生産性を高めていったように、ロボットにAIを搭載させ、それらをデータで連携させていく。そして、需要に合わせて生産量を制御するといった無人のスマート工場にする。製造業だけでなく、金融も医療も教育もモビリティも、あらゆるものをスマート化する。本来、そうしたAI革命は日本が得意な分野であるはずなんです。

PROFILE プロフィール

孫 正義(そん まさよし)プロフィール

1957年、佐賀県生まれ。16歳のときに単身渡米。在学中に米国で起業。カリフォルニア大学バークレー校卒業後の1980年に帰国。米国で立ち上げた企業を売却して得た資金をもとに、1981年に株式会社日本ソフトバンク(現:ソフトバンクグループ株式会社)を設立。1994年に店頭公開、1998年に東証一部(当時)へ上場。2001年、『Yahoo! BB』の商用サービスを開始し、ブロードバンドサービスを広く普及。2006年にボーダフォン株式会社(現:ソフトバンク株式会社)を約1兆7,500億円で買収、移動通信事業に参入。2016年、英国・半導体設計大手のArmを買収。2017年には、テクノロジーの活用により各分野をリードする成長企業への投資を行う「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」を立ち上げ、AI革命を推進。若手起業家の支援にも力を入れている。

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